声優名鑑 -榊原良子

声優で見る作品を選ぶという、ドラマ。ファンは少なくない・・・。毎回一人の声優に焦点をあて、本人インタビューや出演作品の映像をもとに、「ドラマ吹替え制作当時」のとっておきのエピソードや彼らのバイオグラフィーを紹介するドラマ・ファン待望のコーナーを完全収録!

榊原良子

榊原良子

アニメでは「風の谷のナウシカ」(クシャナ役)をはじめ、「機動戦士Zガンダム」(マウアー・ファラオ、ハマーン・カーン 2役)「機動警察パトレイバー」(南雲しのぶ役)、など凛とした知的な女性の役を多く演じていらっしゃる榊原さんは、「ER 緊急救命室」の”イギリスから来た才女”エリザベス・コーデイ役を好演していらっしゃいます。海外ドラマでは、ほかに「ツイン・ピークス」のシェリー役、「マイアミ・バイス」のケイトリン役などに出演していらっしゃいます。

声優の仕事を始めたきっかけ

榊原
学生時代に演劇科で舞台をやっていました。それでいろいろな劇団を受けていた時に、声優の方たちが新しい事務所を立ち上げるので、立ち上げ公演を行う。そのときに若い人がいないので、誰かいないかという話があったんです。
たまたまその事務所に鉄腕アトムの声の清水マリさんという大先輩がいらっしゃいました。そのだんな様が、実は大学の恩師だったんです。山内先生という方です。その山内先生から「舞台をやらないか」とお声がかかりました。参加してやっていくうちに、社長さんや大先輩の方々から、「おまえ、声の仕事をしないか」というふうに誘われて。芸能界ってとても怖いところだと思っていたんですけれども、恩師の奥様もいらっしゃいますから安心だろうということで入れていただきました。
最初にやった声の仕事というのは、NHKのアニメーションだったんですが、ちょっとタイトルは忘れてしまいましたね。

初めて声を収録する現場へ行ったときの印象

榊原
いわゆる声の出し方とか、そんなことを考えたこともなかったので、ただ無我夢中でした。侍女役で、危険が迫ってきて叫ぶだけだったんです。先輩の方に「そんな叫び方したらマイクが壊れちゃうよ」と言われるくらい、すごい太い声で何か叫んだということは覚えているんですけれども。

アニメや洋画の吹き替えで印象に残ったキャラクター

榊原
やはり一番印象に残っているキャラクターは「ロミオとジュリエット」のオリビア・ハッセーをさせていただいたことですね。
実は大学時代、演劇科にいたときに、「ロミオとジュリエット」のバルコニーの場を稽古していたんです。でも、そのときには全然できなかったんですね。
ところが、「ロミオとジュリエット」の吹き替えのオーディションがあって受かってしまった。これは何なんだろうと思いましたね。それで、大学時代必死になってできなかったバルコニーの場がどうにかできたっていうのが、一番の思い出ですね。やっぱり継続は力なり。忘れないでやっていけばできるんだなっていうふうに思ったことです。それが一番印象に残っていることです。
あのとき、オリビア・ハッセーさんは14・5歳だったと思うんですよ。私はそのとき、24歳くらいで。大抜擢だったんです。初めての大役だったんですよ。それまでは女Aとか女Bだったんです。もう、大先輩で、この人絶対、オリビア・ハッセーだろうなと思う方もオーディションにいらっしゃっていて、その中で選ばれたものですから、とにかくびっくりして。
「ロミオとジュリエット」の練習中、たまたまダブって、アニメーションで「六神合体ゴッドマーズ」(フローレ役)の練習もやっていたんですが、「ロミオとジュリエット」の収録の1週間前に声帯に炎症を起こしてしまって、高い声が出なくなっちゃったんですね。もう、即病院に行って。通院しながら、せっかくの大役なのに、私はだめになるんじゃないかと思いながらやらせていただいたというのも、また印象に残っていることです。

アニメ、海外ドラマ、ナレーションの違い

榊原
声の出し方に関して、演技では、役柄の性格・背景・生い立ちというものをまず最初に考えます。こうか、ああかって考えるうちに、たまたまそういう声になっていくという感じですね。
ナレーションにもいろんな種類があるのですが、ほとんど私自身の価値観とか、社会性とか、そういったものを元にしゃべっています。いわゆる演技とナレーションの相違というのは、リアル感の違いですね。ナレーションの場合、私はニュースが多いわけですけれども、現実なものですから。洋画とかアニメというのはつくられたものなので、そこのリアルな感覚の相違を区別しているということです。それで声が変わってくると思うんですけれども。

キャラクターに対するアプローチ

榊原
いただいたキャラクターへの最初のアプローチは、VTRを見る前に、まず台本をにザーッと読むということです。そして、どういったかかわりが、人間関係が、その中にあるのかを考えて映像を見ます。そこで一応基本的な部分はとらえます。しかし、「なぞる」ということをしたくないタイプなので、自分なりに表現を――日本人としてですけれども――するために、向こうの方が演じている人格よりも、ちょっと違った形でつくっていくということもあるんですよね。日本人にわかりやすいようにつくるということもありますし。
あとは私の人間に対する見方ですか。それをどういうふうにその役柄に反映させていくかということですね。そういったアプローチですね。

海外ドラマの魅力

榊原
外国の息吹みたいなものを知るっていうことと、日本人である私にはわからなかった、外国での価値観とか、習慣とか、そういったものを感じる魅力。それと、もう一つは、全世界、人間って変わりないんだなっていうのを感じてホッとする。それが魅力ですね。

自分の声の特徴

榊原
私の声の特徴・・・。私は1カ月に1回、音声生理学の先生に見ていただいているんですが、ただ、専門的なことはよくわからないのですが、その先生いわく、倍音が多い、と。倍音が多いということは、非常に聞いていて落ちつく、癒される声だというふうに言われたんです。
でも、それは今だからであって、昔、マネージャーに言われたのは、「あなた、その悪声を何とかしなさい」と。「どういうことですか?」「あなた、まだ24歳でしょう。それなのに、すごい乾いた声よ」「じゃあ、どうすればいいんでしょうか」「うーん・・・。いつも心の中をきちっとして、バランスよく保っていれば、声もそうなるんじゃないか。だから、心に気をつけなさい」 と言われて、ああそうなのかと。いつも力が入ってばかりいたんですね、それまでは。ですから、力が入ることによって、すごいキツイ声になってしまったのが、その力を少しずつ解くことによって、今の声になったんじゃないかって思うんですね。
音声生理学の先生いわく、普通、ファルセットだと声帯が半分開いて摩擦され、地声だと大体、全部が摩擦されるんですね。私の場合、地声の場合も半分ファルセットに近いんです。その分、肺活量は必要になるんですけれども。そういった部分が倍音っていうのに関係あるんじゃないかと思うんです。
あとは、声帯を診てくださる先生いわく、「あなたの声帯は標本にしたいほど、すごくしっかりとした声帯です」というふうに言われてはいるんですけどね。
そういった、機能的なものとか発声の仕方とか、力の抜き方とか。そういったものもすべてかかわっていて、それで少しがさついた声になったとしてもホッとさせる、聞く人が安心して聞いていられるような声になるんじゃないかなと。
※「倍音」・・・ある音の倍の周波数を持つ音。モンゴルの伝統的な発声法「ホーミー」は、倍音唱法と呼ばれ、癒しの効果があるといわれている。

発声について

榊原
発声っていうのは全身を使っているんですね。変な話、太ももの後ろのところまですべて使っていて、響かせているのはすべてのものなんですね。
でも、そのときそのときの感情的な表現では、のどに響くときもありますし、頭に響くときもありますし。変な言い方ですけれども、例えば断末魔の叫び声だとしたらば、声をワーッと張っていながら、声帯を、ぞうきんをギューッと絞るみたいな、そんなイメージで発声もしなきゃならないし。
だから、一概に、ここで響かせてあそこで響かせてというふうには言えないんですね。そのときそのときの感情表現によって違ってきますから。だから、その細かな違いを一つ一つ説明できるようになれればいいなと思うんですけれど。

「ER 緊急救命室」エリザベス・コーディについて

榊原
エリザベス・コーディというキャラクターが最初に出てきたときには、がんばり屋さんで優秀だという印象がありましたね。とても気の強い方であると同時に、間違いとか失敗を犯しながらも、最終的には正しいことを選択しようと常に努力する潔い人だとに思います。
かたくるしいだけじゃなくて、リラックスもできるし、じゃれつくこともできるしっていう。そういったところがコーディさんの女性としての魅力だと思うんですけれども。
ただ、私は演じる側として、人間というのは必ずしも完璧じゃないので、コーディさんの欠点とか弱点とか、そういったものも出したいなという気持ちはありますね。

「ER」第4シーズンのエリザベス・コーディ

榊原
印象的なせりふっていうと、ちょっと私、エッチなせりふが好きなので(笑)。ベントンさんを口説くときに、ゆで卵を食べながら、「私、すごいの」って言うところがあるんですけれども。そこが、私、一番好きで(笑)。
あと、活躍したという意味では、事故が起きて、そこに救急隊員と一緒に向かって、足を挫滅させている人を助けるという場面ですね。今でも覚えているんですけれど、引きずり出すシーンでは、収録で酸欠状態になって、終わった途端にクラクラッときました。声も傷めましたね。でも、やりがいはとてもありました。

「ER」で好きなキャラクター

榊原
私が好きなキャラクターは、第4シーズンで出てくる、ロマノ(笑)。っていうか、キャラクターっていうよりもあの役者さんが大好きなんですね。ロマノをやっている役者さんが大好きなんです。
あの方、背が低くて、あまりハンサムでもないですよね。でも、聞いたところによるとうたって踊れる方らしいんですけれども。演技力もすごいし、あの裏打ちされたものというのは、努力以外の何者でもないと思うんですね。私はそういう人が大好きなんです。

「ER」という作品について

榊原
私は救急医療というのがあれほどすごいものというのは、ずっと全く知らなくて。あれだけ10秒、20秒の間に人が救えるものなのかと。その技術のすごさに、唖然としました。それだけ先生方が人の命を大切にしているというか、とにかく生かすということを考えて処置をする。
それが、果たして私が先生だったらできるだろうか。瞬間に、本当に0.5秒、0.1秒の間に決断をして、パパパパッてできるだろうか。その決断によっては死んでしまうかもしれないって考えると、恐ろしいと同時に、人間の力ってすごいんだなって思う。そういったことを思わせてくれる番組ですね。

生(なま)の現場のおもしろさ

榊原
私は、ニュース番組で生のアナウンスメントをやっていますが、本番30秒前に、最初に読まなければならない原稿が出てきて、チェックする間もなく読む。しかも化学的なものとか医学的なもので、わけのわからないことを読んでいくと、目がバーッと出ていくような感じでマイクに向かうということが頻繁にあります。
その必死に読んでいく姿を第三者が見たら、きっとこれはコメディーになるだろうなというような(笑)、そんな感じなんですけれども。ドキドキしながら、それでもこれも一つの修業というか、おもしろい経験だというふうに思って、毎回、吐きそうになりながらも頑張ってやっております(笑)。はい。

健康や声を維持するためにやっていること

榊原
いろいろな先生やトレーナーに教えていただいた、筋トレと発声練習を必ずするということと、声を使ったら必ず声帯を潤す、そしておふろに入る。
声を支える筋肉というのは、「ER」でも出てきますが、胸鎖乳突筋とか、僧帽筋とか、いろいろあります。そこが支えることによって、声帯に変な力がかからないんですね。でも、こういったところが凝ってしまうと、力が声帯にボーンとかかってしまう。そうすると声帯が炎症を起こしたり壊れてしまうので、必ず体をリラックスさせる意味も含めて、おふろに入ります。あとはよく寝ることですね。

趣味について

榊原
私の趣味というのは、プランターでお野菜をつくることと、習字をすることと、料理をすることなんですね。それもレシピを見ず。冷蔵庫にあるもので、今日は何をつくろうといって即興でつくるのが趣味なんです(笑)。はい。
自分がつくったお野菜、例えばバジルだとバジルソースをつくったり、白雪大根でサラダをつくったり。それをすることで、食べることに対してとてもありがたみが感じられるというか。
どうしても間引きしなきゃならないときがあるじゃないですか。ほかのものを育てるためには間引きしなきゃいけない。残念だけど、ごめんねっていう感じで抜きますよね。それによってほかのものが大きく育ってくれて、それがおいしく食べられるっていうのは、とてもありがたいことっていうのかな。
そういった自然とかかわっていたいっていうのもありますし、ほんのちっぽけなことなんですけれども、そういったことでもありがたみを感じられるようでいたいなって。それがなくなっちゃったら終わりかなっていう気がするので。今、スーパーホウレンソウをつくっております(笑)。そういうのを食べながらね、「ありがとう、ありがとう」って言いながら、「おいしい、おいしい」って言って食べるのが好きですね。

声の仕事を目指す人に

榊原
声の仕事をしたい、勉強したいといらっしゃった方に、最初に私がしてあげたいことというのは、できればマンツーマンでやりたいのですが、心の開放ですね。
私がここまでくるのに、あまたの劣等感を克服するのに、どれだけの時間がかかったかというのがありまして。心を解放させる、体を開放させる、それをすることによって声が体全体に響いていくわけですよ。どこかに精神的に引っ張られるところがあったり、体が解放してなかったら、絶対に響かない。いい声が出てこない。いい声っていうのは、きれいな声とか美しい声っていうことではなくて、「生きた声」ですね。
 

榊原さんにとって声優とは

榊原
私にとっての声優っていうのは、うーん・・・。声優というよりも、表現者、声の表現者ですかね・・・。
声という、道具が一つしかない。その限られた中でどれだけ1人の人間の深み、人間の深みを表現できるかどうか。どれだけの感情の揺らぎを表現できるかどうかっていう、とても難しい仕事の一つだと思うんです。姿形が見えないだけ、頼るものがない。だからこそ、日々、自分を洞察し、人を観察し、物事を洞察し、物事を観察し。そこからどれだけのものを糧としていくかっていうことだと思うんですね。
日々、1人の人間としてどうやって生きているかが基本で、それが勉強で。それによって、やっとマイクの前に立てる、表現できる。それが声優だというふうに思っていますけれど。はい。

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