声優名鑑 -小宮和枝

声優で見る作品を選ぶという、ドラマ。ファンは少なくない・・・。毎回一人の声優に焦点をあて、本人インタビューや出演作品の映像をもとに、「ドラマ吹替え制作当時」のとっておきのエピソードや彼らのバイオグラフィーを紹介するドラマ・ファン待望のコーナーを完全収録!

小宮和枝

小宮和枝

「ER 緊急救命室」のケリー・ウィーバー役、「俺がハマーだ!」のドリー・ドロー刑事役、「スタートレックDS9」のキラ・ネリス副司令官役でおなじみの小宮和枝さん。とてもアクティブでステキな方です!

役者の道への第一歩 ・・・ 児童劇団

小宮
アナウンサーになりたいと思っていた小学2年生のころ、当時のNHK東京放送児童劇団から、合唱団と児童劇団の募集があったんです。音楽の先生に推薦して頂いて、NHK(当時内幸町というところにあったNHK)へ試験を受けに行きました。私はてっきり合唱団だと思って行ったんですけれど、児童劇団だったんです。小学校2年生で受かり、ずっと都電で通っていました。

役者の道を歩み始めて

小宮
その児童劇団は中学までだったんです。それからは、芝居をやりたいという何人かが高校生とグループを組んで、今考えるとすごく幼かったんですけれど、戯曲の解釈なんかをやってたんですよ。俳優養成所にも行きました。そこは、1年で解散しちゃったんですけど。それで次の劇団を受けたいと思っていたのですが、(当時私は)NHKの青少年部でアルバイトしていたんです。人形劇がありますでしょう? 「ひょうたん島」とか「ネコジャラ市」とか。その(番組にきた)ファンレターのお返事書きをしていたんです。そのときにお借りしたデスクの前に「新劇」という雑誌がありまして、そこに井上ひさしさんの戯曲が載っていたんです。読んだらすごくおもしろくて。(その雑誌の)後ろを見たら、「テアトル・エコーで上演予定」と書いてあったので、これを見に行こうと思ったのが(入団の)きっかけでした。テアトル・エコーという劇団は、声の仕事をしている声優さんがすごく多かったんです。それで、私もその波に乗りました。

初めて演じた作品

小宮
アニメですと「荒野の少年イサム」とか、その辺だったと思います。

初期のアテレコ風景

小宮
今と違って映写でしたから。モニターではないのでものすごく時間がかかりました。「本番!」と声がかかって、スタジオが暗くなって、映写だから「5、4、3、2、1」と出ますでしょう。それでだんだんキューッと緊張が高まって、という感じでした。とちると、映写室にフィルムの音がするんです。カラカラカラカラと音がするんです。そうすると、「おまえのせいだ、おまえのせいだ」って聞こえるんですよね(笑)。とちると本当に怖かったですよ。

声をあてる上で気をつけていること

小宮
そうですね......。その人の呼吸ですね。やっている内に自分の呼吸と近くなってくるんですけれど、初めは、その人の肺活量とかをチェックします。長くダーッといける人なのか、割と切れる人なのか。それと、キャラクターを演じることと並行していきますが、感情の出し方のタイプ分けはします。

声を維持するために普段から心がけていること

小宮
私はとても幸せなことに、声帯が強いんです。ですから、過信してずーっと使えてしまうんです。ただ、だめになるとウンともスンとも言わなくなってしまう、ちょっと怖いところがあるんですけれど。強いて言えば、睡眠時間を十分に取ることですね。

趣味について

小宮
私は多趣味でしょうね、ものすごく。養成所のころからずっとジャズダンスをやっていて、今でも続けています。それと、昨今のブームでヒップホップダンスもやっています。ジャズダンスといえば、21~22歳のころかな、花のキャバレー回りをしました。アルバイトで(笑)。もう皆さん、ご存じかどうかわかりませんけれど、ザ・ピーナッツの使い古しの衣裳をお借りして、おへそ出してキャバレーで歌って踊ってしてましたね。
あとは三味線、長唄。三味線はお名前をいただいています。長唄をやっていていいのは、声の音域が落ちないことですね。音域って年を重ねるにしたがって落ちてくるんですよ。上の部分が出なくなっていくから。長唄は、その上を残しておきながら下を伸ばそうとする。だから始めました。それからマラソンもしています。フルマラソンに出て完走しました。10キロくらいはペロッと走りますよ(笑)。

多趣味の理由

小宮
とにかく好奇心ですよね。ちゃんと走っている方に申しわけないんですけれど、一番初めに出たレースが、10マイルといって16キロ。でも、自分から走ろうと思ったわけではなくて、ずっと懇意にしている新橋の焼鳥屋さんのママが走っている方で、その方が交通事故に遭われてケガをされて、「エントリーしていてもったいないから、あんた走って」って言われたんです。「走ったことないからだめよ」と言ったんですけれど、ジムで3~4キロ走ったら、ま、いけるか、と。それでやっちゃうという......。実寸を走ったことないのに、走ったら自分はどうなるのかなという好奇心で走れましたね。走ってゴールしたときに、どっちかなんですって。もう二度と嫌だという人と、次、何キロ走ろうかなと思う人と。たまたま私は後者のほうで。16キロ走って、次はハーフですからね。3回目はフルですから。生意気だと言われましたよ、走り仲間に。でもそれは、好奇心と、何と言っても走った後のお酒ですわね(笑)。これはもう、たまらなくおいしいですよ。

「たしなむ程度」のお酒のはなし

小宮
私の場合、「たしなむ程度」のストライクゾーンがすごく広いんですね(笑)。(酒種は)洋の東西を問わず好きですが、強いてと言われれば、日本酒です。フフフ。今は「獺祭(だっさい)」というお酒に凝っています。山口県のほうのお酒なんです。......ここはカットですよ(笑)。まあ、5合は飲めますね。調子いいと(笑)。

趣味は演技に影響するか

小宮
ありますね。初めてフルマラソンを走ったときに、「私はこれから、大概のことは耐えられる」と思いました。あのつらさを味わったら、大概のことは越えられますよ。
もともと肺活量はあるほうですが、(走ることで)より多くなってきているので、芝居の舞台やアテレコの仕事でも、かなりの長ぜりふをガーッといけます。だから、それはたぶん役立っていると思います。

舞台と声の仕事の違い。

小宮
私は、お芝居という点では、根幹は一緒だと思います。ただ、舞台は、イタに載って、ソデから出たら、やり直しはききません。声の場合は、ちょっとかんだらやり直しはききます。でも、元は同じだと思います。どうデフォルメするかだけだと思います。

海外ドラマの魅力について

小宮
まず日本のものと比較してみますと、限られた時間の中の構築の仕方が非常にうまいと思うんですね。私は、30分ドラマの「ソープ」とかやってきたんですが、その中の起承転結というか、序破急というか。とにかく構築がうまいですね。よくまとめると思います。そういうところに魅力を感じます。

シチュエーション・コメディーの魅力について

小宮
あちらのものはラフ※が入っていることが結構多いですよね。そのラフに乗っかるっていうのかな。その場に居合わせられるんです、私は。だから、そこがすごく魅力的ですね。(シチュエーション・コメディーは、)多分に舞台劇として見ています。だから、その役に乗っける色も、かなり助けられますよね。
※ラフ・・・劇中に挿入される(観客の)笑い声

印象深いキャラクター

小宮
うーん......。最近は何だっけな。映画で「コニー&カーラ」というのをやったのですが、あれはおもしろかったですね。女2人がゲイボーイに成り済まして、キャバレーで踊るのかな。すっごくおもしろくて。もう、自分で笑いながらやっていましたね。

小宮さんが魅力を感じるキャラクター

小宮
何らかの強さがあるということですかね。仕事の面でもありますでしょう、強さって。あとは説得できるリアリティーがある。こんなことしないでしょうって周りから思われても、でも彼女だったらあるかもしれない。そのリアリティーを持っている人。それをこっちが感じて、よし、この役だったらこういうことも言えちゃうんじゃないかな。こういう声も出ちゃうんじゃないかな。そこを探るのが楽しいし、そういう何かひっかかるものがあるキャラクターが魅力的ですね。

「ER 緊急救命室」への参加

小宮
ケリー・ウィーバーは第2シーズンからの登場なんですけれども、オーディションを受けて入りました。その前に1回だけゲストで出たことがあるんですが、えらい騒ぎだな、このドラマはって(笑)。録ってる最中に、うわあ、大変だと思ったんです。よもや自分が入るとは思いませんでしたね。

ケリー・ウィーバーについて

小宮
先ほど申し上げたように、「強い」ですよね。上昇志向がものすごくあって、け散らしても「あ・た・しが行くのよ!」という強さがある。でも、もちろんそれは(医者としての)腕があるから成立するんですよね。プライベートなことを極力出さず、職場は職場という強さを感じます。(声については)オーディションのときに、ディレクターの方から要望がありました。ローラ・イネスってちょっと声が変わってますよね。少し細くて、つぶれてなくて、高くて。「その声に近づけられる?」って。私は「できます」。「その声、ずっと続けられる?」と聞かれて、「大丈夫ですよ」と言って、役を取りました(笑)。

「ER」の好きな場面

小宮
言葉を失ったか、生まれつき口がきけない少女がいて、ウィーバー先生が、まくら元で結構長いせりふを手話を交えながら話す場面がありました。ウィーバー先生の独特の声には、何か原因があって、だから手話もできるのかなと思ったんですけれど、それは謎でわからないんです。その場面をやりながら涙ぐみましたね。
(ケリーは)プライベートはほとんど出さないんですけれども、生い立ちとか、恋愛関係もかなりすごいですよ。ちょっと目が離せません。

医学用語のせりふについて

小宮
すごく難しい医学用語がいっぱい出ますでしょう? そうすると、何でもない漢字が読めなくなるんです。パッと見て。ものすごく難しく読まなきゃいけないのかなと思って、「へんとうつう」って、「それは偏頭痛(へんずつう)だろう」っていう話があります。みんな、肩ガチガチになってやってますよ。すごく難しい漢字には(フリガナ)振ってあるんですけれど、私は看護師のお友だちに、看護師さんが使っている辞書をお借りして調べたりしています。あと、ツボにはまって抜けられなくなっちゃうぐらい、かんじゃう場合があるんですよ。何回録ってもだめなときはもう、言いますもんね。「普通、医療現場だってかむやつはいるだろう!」って(笑)。

「ER 緊急救命室」の魅力

小宮
もちろん、監修の医学博士もついていらっしゃるので、ものすごく専門的な面でもすごくよくできている作品だと思います。うそはない。それになお、人間的なドラマが並行して幾つもあるので、見逃せないですね。私たちも、どうなるんだろうと。あの2人、どうなるんだろうと、結構おもしろく見ていますから。

「スタートレック」シリーズに参加して

小宮
「スタートレック」の前身になるんでしょうか。昔、「まんが宇宙大作戦」というのがあって、それに出ていたんですよ。ですから、「スタートレック」の実写に出られるって、すごくうれしかったですよ。

「スタートレック ディープスペース・ナイン」 キラ・ネリス副司令官について

小宮
やっぱり、テキパキとして、副司令官ですからすごい男まさりで強い女性ですけれど、恋愛関係になるとすごく女らしくてかわいいんですわ、これが。そこにすごくひかれます。(シスコ役の)玄田(哲章)さんとは、アニメ「うる星やつら」とか、ずっと前からのおつき合いですからね。ツーカーですから。こういうふうに私が出れば、ガーッと出てくれる。すごくやりやすいですよ。

声の仕事をして嬉しかったこと

小宮
私と中学・高校と同級生だった男性がいるのですが、彼の娘さんがファンでずっと見ていてくれたんですよ。それで、「私もやりたい」って言って、私の出た児童劇団に入って、今度は親を説得し、テアトル・エコーの劇団入って、今、研修生で頑張っているんです。ファンレターをちょうだいしたりして、「小宮さんみたいになりたい」とか「声優になりたい」と書いてくださる方はいっぱいいらっしゃいますよ。それもうれしいんですけど、実際にすぐそばにいて、それも幼なじみのお嬢さんなんていうと、すごくうれしいですね。

講師として、声優を目指す人たちへのアドバイス

小宮
初めに「役者になりたいの? 声優になりたいの?」と聞くと、大体が「声優になりたい」と言います。「でも、今、声優をやっている人はみんな舞台の経験者よ。声だけの仕事、すぐマイクに立ちたいと思うんだったら、私のレッスンはだめよ」(と言います)。お芝居は、根幹は一緒だと思っているから、声優を目指しているあなた、あなた、あなた。みんな動かすよ。体、動かせるよと言って、どんどん動かせます。動かしていると、だんだんこれがね、舞台のほうに色気を感じてきたりするんですよね。だから、ここだけのお芝居は絶対やめましょうと言っています。

「演技」することで重要視していること

小宮
リアリティーです。もう、これだけです。

「リアリティー」について

小宮
すごく古い話になりますけれども、もう今辞められた、西田敏行さんがまだ青年座にいらしたころに、「写楽考」という芝居をなすって。これがすごくおもしろかったんですね。写楽が本当にちゃらんぽらんな性格で、パーッと出てきて。その当時はやっていた歌を口笛で吹くんですけれども、それは何とピンク・レディーの「ペッパー警部」だったんです。♪ピッピー ピッピッ♪と出てくるんだけど、これはあり得ないんだけど成立する。そのリアリティー。すごくおもしろかったですね。

声優とは何か

小宮
うーん......。天職、なんて言いません。恥ずかしいから。違う意味で、飯の種ですけど、声優は......。うん。役者と同じくらい、体力勝負。体力がないと続けられない。

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