声優名鑑 -谷口節

声優で見る作品を選ぶという、ドラマ。ファンは少なくない・・・。毎回一人の声優に焦点をあて、本人インタビューや出演作品の映像をもとに、「ドラマ吹替え制作当時」のとっておきのエピソードや彼らのバイオグラフィーを紹介するドラマ・ファン待望のコーナーを完全収録!

谷口節

谷口節

スーパーチャンネルでは何といっても「エンタープライズ」のジョン・アーチャー船長、「炎のテキサス・レンジャー」のウォーカー役でおなじみの谷口さんですが、そのほか「マックス・ヘッドルーム」のエディソン・カーターや「ザ・シールド」「ダーク・エンジェル」などドラマに多く出演されています。

谷口 節さんの子ども時代

谷口
今、こんなことを言うと声優仲間たちも笑うのですが、恥ずかしがり屋で、シャイで、人見知りする。そんな子どもでしたね。

俳優の道へ進んだ経緯

谷口
私は大学までずっとスポーツをやってました。小学校から高校までは野球、大学はフェンシングと、芝居とはまるで関係のない生活をしていましたね。
学校を出ても、大手商品取引会社の経理部で、粛々とお金を勘定しておりました。そのときに、1974年、昭和49年だと思うのですが、ある新聞のコラムに、黒沢良さんが日本で初めての声優教室を開くというのが出ました。小さいコラムだったんですが、それを見て応募したんです。何も演劇を知らずに。そうしましたら、30人くらい採る予定のところに、700数十人応募があったそうです。
受験会場に行きましたら、私、せりふも何も知りませんので、皆さんが台本のようなものをお読みになっているのですが、その紙をもらっても読む術さえ知りませんでした。それで受けたんです。もちろん、落ちたと思いました。・・・あろうことか、残ってしまったんですね。35名くらいを採ったのですが。そこから演劇の道が始まったんです。

声の仕事(吹替え)をやってみたいと思った動機は?

谷口
僕は北海道の炭坑町で育ったのですが、家のすぐ隣が東映系の映画館でして、毎週週替わりで美空ひばりさんとか大川橋蔵さんとか中村錦之介――後で萬屋さんになりましたけれど――さんたち、彼らの映画を3本立てで見ていました。そういう映画がものすごく好きでしたし、洋画も好きでした。後で考えますと、どうもそのことが洋画の吹替えをやりたいという大きな動機になったのかなと思っているんです。

はじめてのアテレコ(吹替え)

谷口
黒沢良声優教室の、アテレコ第1期生に選ばれまして、そこで1年近くトレーニングをした後にスタジオに入らせていただきました。それが第一声です。作品は軍隊ものでしたね。

声の仕事が好きになった経緯

谷口
デビューしてから3年ほどやって、どうも芝居がうまくいきませんで、非常に悩んでいました。その頃、竹内敏晴演劇研究所というところに入ったのですが、そこは、感性を開こう、役者の感覚を磨こうじゃないかというトレーニングをしてくれるというところでした。そこで初めて、演劇の想像力にあふれるせりふというのに取り組むことができるようになりました。
それから、洋画の吹き替えは楽しいなとを感じることができましたね。どちらかというと、これまでもアクションにあふれる役柄というのが多いのですが、向こうの役者さん以上に声を画面から飛び出せるように、自分が表現できたというのは、嬉しいですね。

印象的に残っている役

谷口
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のビフ・タネンという大きな男で、マイケル・J・フォックスをいじめる役にオーディションで受かりました。そのときに、マイケル・J・フォックスの頭を「もしもし」って叩くシーンがあるんですが、彼の頭の中の空洞をイメージできて、芝居ができたことが非常に嬉しかったですね。

キャラクターへのアプローチ

谷口
これは人によって違うと思うんですけれども、私の場合は映像をまず見まして、そこで感覚的につかみ取っていくほうが多いですね。ですから、あまりこれがどうであるとか、解釈をせずに、見たままというか、その映像の役者あるいはアニメの主人公がどういうことを思っているのか、どういうアクションをしたいのか、どういうような方向でこれから動きたいのかということをメインに考ています。
今はビデオテープをリハーサル用に貸していただいて、うちで台本をチェックしながらするんですが、そのとき、完璧にはその役柄をつくり上げないようにしています。なぜかというと、練習でつくり上げてしまうと、本番で共演する方のせりふが聞こえなくなってしまう可能性があるので、相手の方のせりふを聞いてから、キャラクターづくりをします。相手がいて、キャラクターってできてくるのではないかなと思っていますので。自分で頑としたものをつくり上げていくと、本番で変えようがないと思うんですね。フレキシブルなところを残しておいて、本番でなるべく揺れるというか、ガチガチの主人公をつくらないようにしたいなとは思っているんです。

ナレーションと吹き替えで違う点

谷口
(息の出し方は)変わらないと思っています。よく俳優さんで、「ナレーションはナレーション、吹き替えは吹き替え、舞台は舞台」とおっしゃいますけれど、僕はナレーションも吹き替えも舞台も一切変わらないと思ってやっているつもりですし、そういう思いです。

自分の声を客観的に聞いてどう思われますか?

谷口
演劇のトレーニングをちゃんとするようになってから、あまり自分の声というのを聞かなくなりましたね。想像力とか対象に意識が向くと自分の声ってあまり聞こえなくなってくるんですよ。それでナレーションもやっていますから。
ナレーションのときに、耳に返りがくるんですが、なるべく返しをもらわないで、自分の声をあまりフィードバックしないようにしています。演劇も、芝居も、洋画の吹き替えのときも、フィードバックをなるべくしない。終わったことは終わったこと。先へ進む。というふうに、まるで舞台のような感じで取り組んでいるんです。

これまで演じてきた役の中で、印象に残っている「好きなせりふ」は?

谷口
これはやっぱり、「スタートレック エンタープライズ」アーチャー船長の言葉ですね。第1話で(第1話&第2話「夢への旅立ち パート1&2」)、クルーのメイウェザーに向かって、出発するときに「風を恐れるな」って言うんです。これは結構きましたね。非常に、今でも印象に残っています。
非常に大きなメッセージなのかもしれませんよね。現実にアメリカや日本でも、経済問題とか人間関係の問題とか、あつれきのあることが多いですから、ある意味では「ストレスを恐れるな」ともとれますし。いろいろな状況に対して「果敢に立ち向かえ」ということでもありますし。そういうメッセージだったのかもしれませんし。非常に好きな言葉ですね。

「スタートレック エンタープライズ」について

谷口
ジョナサン・アーチャーが未知の世界へ向かっていく探索の旅、異星人とのファースト・コンタクトの旅ということで、全くわからないところへ旅立っていくわけですよね。彼は、非常な勇気と興味と好奇心を持っているわけですが、果たしてもし、私があの立場になったら、あんな宇宙へ行けるものだろうか。こんな宇宙へ飛び出して行けるだろうかと思うほどの恐怖ですね。ものすごく勇気がいるこだと思いますね。

アーチャー船長について

谷口
声をあてているから言うわけじゃないですが、比較的彼のしぐさや目線や表情って好きなんですけれども。嫌いなところはほとんどありませんね。

「宇宙大作戦/スタートレック」のカーク船長ばりに無鉄砲なところがありますが-
そうですね、みずから様々な場所に行き過ぎですよね。必ず命がけで危ないところへ率先して行きますんで。船はどうなるんじゃい、というような感じで。それが「スタートレック」のいいところなんでしょうけれど。

-アーチャーはどんな性格だと思いますか?-
バルカン人のトゥポルに当初、言われたことは、「感情的過ぎる」。でも私としては、感情的過ぎる役、あるいは暴力的過ぎる役というのをいっぱいやってきましたので、決してアーチャーが極端に感情的だとは思わないんですけれども。もっと感情的になってもいいのではないかと思いますが、やはり船長という立場から、非常に責任ある行動をとらなければいけないので、あの程度で抑えているのではないかなと思うんですけれども。

スコット・バクラについて

谷口
意外とスムーズにせりふをしゃべられる方で、結構ナチュラルなんです。だから、ここは区切ってこうやったとか、ここからくっきりこうしたということが見えない役者さんです。ほかの作品で声をあてたときもそうだったんですけれども、やりやすいですね、非常に。

「チャック・ノリス 炎のテキサスレンジャー」のおもしろさについて

谷口
(チャック・ノリス演じる主人公の)コーデル・ウォーカーは、ネイティブアメリカンの血が入っているハーフなんですね。それで、番組の中でも多々あるんですが、瞑想をして犯人の居場所を突きとめたり、どちらかというと、このデジタル世界で、アナログ的な発想というか、嗅覚で犯人を追い詰めていく。今の、犯人を追いかける捜査とはまるっきり違う手法で、コーデル・ウォーカーが追いかけていくので、その辺が一番おもしろいんじゃないかと思うんですけれど。
それと、トリベットが、ちょっと間の抜けたというか、ウォーカーとちょうどおもしろ弥次喜多になって犯人に迫っていくのが、非常にほのぼのとしていていいのではないかと思います。

チャック・ノリスについて

谷口
チャック・ノリスさんも年を経まして、だんだん回し蹴りがゆっくりになってきたかなというふうに思いますし、犯人を追いかける足がですね、年々遅くなってきたということを、見て感じていますね(笑)。
ですから、恋人とのエピソードが増えたし、新人2人の保安官を導入しましたしね。自分の走りのカバーできないところを、若手にちゃんと走らせてアクションさせているんです。
「炎のテキサスレンジャー」は、最終的にはほのぼのするドラマです。ですから、私もコーデル・ウォーカーをあてるときに、演技をしているかどうかわからないような自然体であてたつもりなんです。

発声について

谷口
「開いたのど」をいつも意識していますね。呼吸法とか発声を、人に教えるときがあるんですが、横隔膜を的確に使って、深い呼吸というのを教えます。大ベテランの滝沢修さんは、「俳優はかかとから声が出なければならない」とおっしゃっていました。いや、とてもとてもそんな、かかとからなんて声は出ませんけれども、おなかから響く声を、開いた声が出るようにということは心がけています。
滝内演劇研究所にちょうど来られていた、野口体操のかの有名な野口三千三先生などに、発声、呼吸法も含めて教えていただいたのですが、尾てい骨の底の底のところまで横隔膜が開いて落ちてくるというか。お尻のあたりまで空気が入っているというイメージをするということなんです。そうすると、普通の方は声の響きが胸の辺なのですが、だんだん下へおりてきまして、腰のあたり、あるいは尾てい骨のあたり、もっといくとひざのあたりまで響きがおりてきますから。「声がおりてくる、おりてくる」ってイメージするんです。

声の仕事をしていて嬉しかったこと

谷口
アニメなのですが、「ワンピース」に出させていただきました。クリケットという、栗のようなものを頭に載せた役をやらせていただきましたときに、非常に反響が大きくて、皆さん、非常に喜んでいただきました。事務所にも手紙が来ましたし、ファンの方から喜びの声のハガキをいただいたりするんですよ。

演技をする上で重要視していること

谷口
台本をいただいたとき、あるいは演技をするときに、やはりこれは私のメインのテーマですが、活字を読むということよりも、活字に書かれている、台本に書かれている映像というか、イメージをいつも外側に持って演技するように心がけています。

俳優を目指す人たちへのアドバイス

谷口
やはり、台本を繰り返し読んでも、あるいはせりふを繰り返し読んでも、それはあまり・・・。こんなことを言っては何ですが、繰り返し読んでも意味がないので、書かれている内容で想像できる事柄をイメージする。我々小さいときには想像力がたくましかったのですが、だんだん大人になってくると想像力が乏しくなってきました。活字を見ると活字しか浮かばないとか、そういうことになってきますから。やはり、イメージをたくましくしていくことが、俳優につながっていくのはないかと思います。

声優とは

谷口
アニメーション、あるいは洋画の映像を通じて、その映像に命を吹き込み、その音声で見ている方が喜んだり楽しんだりしていただける、非常に演技していて生きがいを感じる仕事だと思いますね。

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