
「モーツァルト・イン・ザ・ジャングル」で主役の天才指揮者ロドリゴ・デ・ソウザを演じているのは、メキシコ人俳優のガエル・ガルシア・ベルナル。22歳で主演した映画『天国の口、終りの楽園。』が大ヒット、以降、米国でも多くの作品で活躍する人気俳優が、かつて「俳優になりたくなかった」思春期を過ごしていたと明かしている。
父親は映画監督、母は女優。エンターテイナーの申し子のようなガエルにも迷いの時期はあった。
「両親とともに劇場の中で育ちました。子供の頃は劇場と家庭を分けることができないくらい、身近に思っていました。だから今になって思えば、非常に変わった環境で僕は育ったと言えるでしょう」
家と劇場の毎日があまりにも必然だったため、それ以外の場所が、まるで違う世界に思えた。
「思春期を迎え、俳優になりたくないと思ったのです」
思えば、それが自立の時だったのだろう。その敷かれた道への抵抗がガエルを成長させた。
「(俳優になることは)あまりにも簡単でした。だから何か違うものに挑戦したかったんです。僕はメキシコ国立自治大学に入学し、哲学を学びました。俳優にならないためにベストを尽くしたんです」
学問に没頭してみたものの、運命にはあらがえず。遠回りして、劇場に戻ってきた。
「僕の場合、演技がしたいとか、舞台に立ちたいとかじゃなかった。僕はその場所の匂いが好きなんです。お寺のような場所と言えばわかりやすいかもしれません」
幼い頃から育った実家のような場所、劇場はガエルの全てを受け入れてくれる場所でもある。
「舞台に上がる前、つまり演技をする前の緊張や興奮たらありません。そして舞台に上がった途端、完璧な世界に立っていると感じるのです。だから演技をしている自分が、僕にとってのベスト版だと思っています」
若い頃は演技が何かピンときていなかった。しかし、道に迷って気が付いた。
「他の誰かを分析して理解する、演技とは存在を問う旅のようなものなんだと考えています。セラピーであり、カタルシス。僕自身、演技を通して多くのことを昇華させられるようになりました」
演技について語るガエルは、まるで哲学者のようでもある。思春期に回り道をした。しかし、その途中に得たものをガエルは俳優人生全てに生かしている。
<「npr.org」 2024年10月13日>