
米FOX「BONES ―骨は語る―」のエミリー・デシャネルが出身校であるボストン大学の卒業式に登壇、2025年度の卒業生を前にスピーチを行った。
「BONES ―骨は語る―」「オハイオの悪魔」など数々の映画、TV、配信シリーズに出演してきた人気者、意外にも大観衆に向けてのスピーチはこれが初めてだという。
「私は弁護士、医者、CEOなど様々な職業の役を演じてきました。もちろんいろいろな立場の妻の役もです。私は守備範囲の広い俳優なのです。けれど、学位授与式(卒業式)のスピーカー役はこれが初めてです」
出席した4000人以上の卒業生、そして2万人以上の参加者から大きな歓声が飛ぶ。間違いなく、エミリーはボストン大学が誇る有名卒業生の一人だ。
それほど優秀な学生ではなかったと謙遜するエミリーが、一つ自信を持って言えることがある。他人に対しての思いやりだ。
「私は世界的に有名な啓蒙家でも、ノーベル賞を受賞した科学者でも、先見の明を持ったCEOでもありません。一介の俳優に過ぎないのです。別の人になりきるのが仕事であり、そのためには、その人を理解せねばなりません。その人の気持ちを思いやるとも言えるでしょう。その人は何に笑うのか、何を恐れるのか、何が欲しいのか。それこそが私が俳優として日々考えていること、その能力が俳優の強みであります。芸術家を気取るつもりはありません、一人の人間として他人を思いやる才能に長けていると、俳優の私は考えているのです」
28歳で「BONES ―骨は語る―」主役テンペランス・ブレナンの座をつかんだエミリー。幸運な女優人生であるものの、悔し涙を流すこともあった。
「『BONES ―骨は語る―』シーズン1のことです。脚本家は視聴者がどう感じているかナーバスになりますし、スタジオ(FOX)幹部は失敗作になるんじゃないかと気をもんでいます。当時、私は20代後半で初めてのTVシリーズ主演でした。自分のキャリアを成功させたくって、良い役者であろうと必死に頑張りました。一日14時間から16時間働き、夜は夜で苦労して専門用語を覚えたものです」
ストレスはマックスの日々。そんなある時、「BONES ―骨は語る―」クリエーターのハート・ハンソンがエミリーのトレーラーを訪れた。
「彼はスタジオ幹部が私の仕事に疑問を抱いていると言いました。幹部たちは、私がきちんと準備をして仕事に臨んでいないため、撮影スピードが遅いと思っていたのです。私はこんなに一生懸命やってるのに、とがっかりしました。全部言い訳することもできましたが、無駄なことです。私たちのビジネスは現場での出来が全てなんです」
そして翌日、今日こそはと準備万端で撮影に向かったエミリー。ところが何かが違っていた。その日はエミリーの誕生日、皆がサプライズでお祝いをしてくれたのだ。スタジオの幹部も顔を見せていた。複雑な気持ちと涙が一緒に込み上げてきて、エミリーはトレーラーに駆け込んだ。逃げ出した自分に(これでクビだ)と言って聞かせた。
追いかけてきてくれたのが、やはりハンソンだった。「大丈夫、こんなことくらいでクビにはならないとなぐさめてくれました。彼は彼でものすごいプレッシャーを抱えていたと後になって知りました」
エミリーの心配は杞憂だったことは言うまでもない。後に「BONES ―骨は語る―」は12シーズン続く大ヒットシリーズに成長したのだから。
ハンソンの思いやりに感謝するエミリー。スピーチに聞き入る卒業生に、「皆さんも人間だから失敗もするでしょう。プレッシャーに負けてしまったとしても、自分を責めないでください。自分に期待しすぎるのは分かります。けれど自分を思いやることを忘れないで欲しいのです」と語りかけた。
他人に対する思いやりだけでなく、自分自身に対しても思いやる気持ちが大切。現代の熾烈な実力社会に飛び込む若い卒業生たちに向け、エミリーの思いやりにあふれたスピーチはきっと心に残り続けることだろう。
<「bu.edu」 5月18日>