
「モーツァルト・イン・ザ・ジャングル」で指揮者トーマス・ペンブリッジを演じるマルコム・マクダウェルは、英国生まれの名優として知られる。
演劇でならし、スタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』で一躍世界的スターに。TVシリーズ「HEROES/ヒーローズ」や「メンタリスト」へのゲスト出演が印象に残っている海外ドラマファンも少なくないだろう。
1943年生まれのマルコムは、かつて英国のレジェンド俳優、ローレンス・オリヴィエと共演したことがあるという。その作品とは、劇作家ハロルド・ピンターの舞台「The Collection(原題)」のテレビ版(1976年)。マルコムより36歳も年上のローレンス、言うまでもなくキャリアははるか上の大先輩だ。マルコムは当時の記憶を語る。
「オリヴィエは素晴らしかった。あの時、彼は大きな病気を克服したばかりで、気合に満ちていました。長台詞を覚えるのは大変だったと思いますが、やり遂げました」
ローレンスと対面して叱責されるシーンがあったという。
「私がこれまで一緒に仕事をしてきた中で唯一、髪の毛の一本一本がピンとなるような緊張を与えてくれたのが彼でした。皆、彼をとても尊敬していました。私たちにとって伝説のような存在でしたから」
1989年に逝去したローレンスは、アカデミー賞主演男優賞に9度ノミネートされ、うち1度最優秀賞を受賞している。実力、スター性を兼ねた本物の俳優だった。
ローレンスの時代から長きにわたり第一線で活躍するマルコム、今の俳優の中で目を引くのは誰だろう?
「ヘレン・ミレンですね。彼女は最高です。もし僕が共演女優を選べるなら、いつだって彼女が第一選択です。彼女はTVで勇敢な刑事を演じていますよね、あれにはたくさんの人が感嘆したと思います」
近年では映画出演が目立つヘレンだが、ブレイクしたのはTVシリーズの「第一容疑者」。疑いのない実力派も、世界的に名前を知られるようになったのは、50歳前後という遅咲きのスターだ。
映画で気に入っているのは、コーエン兄弟の『ファーゴ』だとか。
「20回以上観ましたが、もう20回は観たいですね。(コーエン兄弟から出演依頼があったら?)すぐに承諾します。まあ、あまり期待はしていませんがね。けれどもし一緒に仕事ができるなら、なんだって飛びつくでしょう」
意外にもフットワークが軽いのがマルコムの強み。82歳の大ベテランは、これからもその旺盛な好奇心に突き動かされ、TVに映画に活躍する。
<「slantmagazine.com」 2006年11月6日>