
「ベター・コール・ソウル」「ブレイキング・バッド」で表向きは紳士的な実業家を装いながら、裏では冷酷なマフィアのドラッグキング、ガスを演じるジャンカルロ・エスポジート。ハリウッド屈指の演技派の一人、ジャンカルロが米紙のインタビューに答え、俳優として成功するまでの苦労について語っている。
ジャンカルロは、イタリア人の父、アフリカ系米国人の母と共に、5歳の時米国に移住してきた。
エスポジートなる姓はスペインやイタリア系に多いという。名前は白人だが、肌は浅黒い。このため、オーディションでは人種や民族性に関する苦労があったという。
「(俳優として)キャリアの始めの頃は仕事をもらうために、なりすましをしていた時期がありました。エスポジート姓から、皆私をスペイン系(の白人)だと思い込みます。当時はアフリカ系の若い俳優に役があまりない時代でした。ですから、自分がスペイン系になりきることで役がもらえると思ったのです」
スペイン語を覚え、民族性も学んだ。スペイン系の若者になりきったのだ。
「20歳から40歳の間の白人の役が募集されていたとします。私はその中に入って、『役に挑戦させてほしい』と主張したものです。実際、その役はどんな人種がやっても良いような役でしたから」
ジャンカルロは、従来の白人優先のオーディションシステムを打ち破ろうとした数少ない俳優の一人だったという。白人ばかりのオーディション会場に入ってゆくのは勇気が必要だったと当時を振り返る。
とはいえ、自分とは縁のない人種になりきることは、ある意味、俳優としての技術を得る機会でもあった。なりきりが功を奏したのか、仕事にはありつけたものの、若い頃は殺人犯やギャングなどを演じることが多かったとか。
「そういった役を演じるに相応しい振舞も覚えました。マネージャーから撮影の現場では口を開くなと言われていたものです。皆に挨拶もしません。紳士のような態度は不要でした。なぜなら、その現場では賢い人間が必要とされてなかったからです。私はスマートで理知的な人間だとバレてはいけない、黙っていろと忠告されていました」
周囲から押し付けられた自分になりきれば、比較的簡単に役は取れた。いつか悔しい思いに耐えきれなくなった。
「何年もそのようにやってきました。けれど、やり方を変えなきゃだめだと決心したんです」
押し付けられた自分ではなく、自分のイメージは自分でつくると決めた。
「自分自身を再発見する方法を見つけようと。それは今までよりずっとハードなチャレンジでもありました」
もがき続けた末につかんだ仕事が「ホミサイド/殺人捜査課」のマイク・ジャデーロ役。ボルチモアのイタリア系コミュニティで育った黒人男性という、まさにはまり役だった。以降、「ブレイキング・バッド」「ベター・コール・ソウル」につながるジャンカルロの本格的ブレイクだ。
現在も待機作はひきもきらず。67歳となった今が一番売れっ子だ。もはや人種は問われない。ジャンカルロでなければならないと、存在そのものが役を引き寄せている。
<「campustimes.org」 2月10日>