「ブラックリスト」主演のジェームズ・スペイダーは、これまでにも『セックスと嘘とビデオテープ』『セクレタリー』、そして「ザ・プラクティス」「ボストン・リーガル」など映画やTVシリーズで、主役を演じてきたスター俳優だ。
特にTVシリーズにおける主演俳優の権威は絶大で、時に監督やプロデューサーとキャスト陣の間に入る干渉役になるという。
「クリミナル・マインド FBI行動分析課」「ベター・コール・ソウル」「パークス・アンド・レクリエーション」などで知られる俳優ジム・オヘアが、自著『Welcome to Pawnee: Stories of Friendship, Waffles, and Parks and Recreation(原題)』の中で、ジェームズ・スペイダーと共演の思い出を記している。
それは、ジムが「ボストン・リーガル」シーズン1第8話「サンタの代理人」にゲスト出演した時のこと。エピソードタイトルの"サンタ"役、同話のメインキャラクターを演じた。
「僕ら(ジムとジェームズ)は最初のシーンを撮り終えた。普通の出来だった。最高だ! とは言えない、まあOKかなってとこ」
そしてテイク2。今度は少し上手くいったのかもしれない、監督から「グレート!」の声が飛んだ。
「僕はもっとやれると思った。監督に『どう思う?』と聞かれたけれど、『これで十分だ』と思われている気がした。このシーンを終えたいのだと感じたんだ。僕は自分の演技に満足してなかったけど、スタッフたち皆は終わりたがってるのが分かった」
ジムはこのエピソードの主役の一人だ。しかし、一話限りのゲストでもある。(これはジェームズ・スペイダーの作品なんだから、彼の意思に任せよう)と口をつぐんだ。
そしてもう一度監督がジムにシーンを終えて良いか尋ねた時には、スタッフはすでに撤収作業に入っていたと言う。
ジムに(もう一度)と口にする勇気はなかった。そんなジムの様子から察したのだろう、ジェームズが口を開いた。
「ジェームズ・スペイダーは僕を見つめて、それから顔を近づけて僕に聞きました、『これでいいのか、満足してるのか』と。僕はジェームズ・スペイダーに嘘はつけなかった。だから『まあまあだ』と答えました。彼はとても"熱い"俳優なんです、もちろんいい意味で。そして、はっきり言われたのです、『もう一度やりたいんだろ』と」
現場が時間に追われていたのは明らかだった。二人のやり取りを耳にした監督は目を丸くしていたという。
ジムの本音を待つまでもなく、ジェームズは監督に向き合った。
「『もう一度やろうじゃないか、もしかしたら、さらに追加があるかもしれないよ』と、ジェームズ・スペイダーは躊躇することなく言いました。監督は目を覚ましたようになり、スタッフは再び準備に取り掛かりました。撮影は再開したのです」
撮影を予定の時間に終わらせることは、TVシリーズの監督にとって技量でもあるだろう。スタッフを残業させたくないし、経費は予算内に抑えたい。
そんな現場のムードを一瞬で吹き飛ばすのが、主演俳優の一言なのだ。
ベテランのジムにとっても、同じ俳優としての意見を尊重してくれたジェームズには感謝しきり。"クオリティ・ファースト"こそ、ジェームズの出演作がヒット、そして好評価される大きな理由なのだろう。
<「ew.com」 2024年12月26日>