実在したシリアル・キラーを描いた全8話のミニシリーズ「ザ・サーペント」に主演したタハール・ラヒムが米誌のインタビューに答えている。
「(シャルル・ソブラジは)素の自分から一番遠い役です。演じられて、素晴らしい経験になりました」
仏人俳優のタハール・ラヒムが、「ザ・サーペント」で演じたシャルル・ソブラジは、1970年代にバンコクで欧米からの観光客を次々と毒牙にかけた悪名高きシリアルキラー。
実生活では、仏女優レイラ・ベクティとの間に4人の子供を育てるタハールには理解できないキャラクターであったことは間違いないだろう。
近年では、『モーリタニアン 黒塗りの記録』『ナポレオン』など話題映画への出演がひきもきらないタハール。そのステップとなった「ザ・サーペント」で主役のソブラジを演じるに当たり、役作りは入念に行ったという。
「シリアルキラーについて勉強しました。何が彼らをこうした行動に駆り立てるのか」
ソブラジの生まれ育った環境は哀しいものだった。
「彼は父に見捨てられ、母からは虐待を受けて育ちました。彼の行動はこうした環境から生まれたものではあるのでしょうけれど、それにしても他人に対する優しさを持てない人間とはいかなるものなのか、知ることはできませんでした。ソブラジはとにかく残酷で残忍な男でした」
たとえ犯罪心理学の博士号を取得した学者でさえ、個々のシリアルキラーの心の内を解き明かすことは困難だろう。しかし、役の心理に一縷の共感さえなく演じたくなかった。タハールは、「ザ・サーペント」監督の一人であるトム・シャンクランドとの話し合いから、あるヒントを得たという。
「こんな台詞があるんです、"世界が自分のところに来るのを待っていたら、いつまでも待ち続けることになるだろう。だから欲しいものは、自分から取り行くことにした"と。心に響きましたね、俳優として、僕も同じように感じていましたから」
アルジェリア移民の子として生まれたタハール。演技やショービジネスとは無縁の世界に育った。金もなければ、コネもない。お先は真っ暗、無我夢中で夢を追い続けた。
「俳優になるために、何でもやらなきゃと思っていました。当時のかきむしるような気持ちだけが、僕とソブラジとの接点でした」
小さな共通点を糧とした。俳優の創造力を最大限に生かしたタハールの演技は、見事に評価され、ゴールデングローブ賞の主演男優賞にもノミネートされている。それでも当たり役となったソブラジに、今もシンパシーは感じていない。
「視聴者の皆さんにお伝えしたいのは、このミニシリーズは犯罪を美化するものではないということです。彼の悪事を食い止めるため、懸命に捜査を行った人々の粘り強さと勇気を称えたいのです」
もがきながら、厭いながら熱演した。タハールの願いは視聴者にきっと届くことだろう。
<「forbes.com」 2021年3月30日>