
「プロテクター電光石火 ~華麗なる諜報~」で主役の私立探偵ハリー・ルールを演じたロバート・ヴォーン、その出世作は映画『荒野の七人』(1960年)だ。
『荒野の七人』は、数々の続編、そしてリメイク『マグニフィセント・セブン』(2016年)も製作されたハリウッドの古典名作であり、ユル・ブリンナー、スティーブ・マックイーン、チャールズ・ブロンソンら豪華スター競演作でもあった。
その"七人"の中で当時駆け出しの若手俳優だったのが、ロバート。その初々しさもあったのか、共演していた豪華スターの中でもとびきりのパーティー好きに目をつけられた。撮影休みの週末、スティーブ・マックイーンからメキシコへ遊びに行こうと声をかけられたのだ。
かつて、英紙の取材に答えたロバートは、スティーブ・マックイーンとの豪快な思い出を明かした。二人でメキシコの盛り場に出かけたという。
「(店から)女の子は何人必要だと聞かれました。スティーブが、俺たちは『荒野の七人』なんだから7人よこせ、と言ったんです。もちろん、その場に僕ら7人が揃ってたわけじゃないんですけどね」
ハリウッドの遊び人として有名だったスティーブだが、ロバートが知らないこともあった。
「スティーブはお金を持ち歩かない人だったんです。僕は彼と遊ぶのは初めてだったので、そのことを知りませんでした」
女の子たちと楽しい時間を過ごした翌朝、女主人が請求書を持ってきた。スティーブが手渡したのは、クレジットカード。しかし、ここはハリウッドの高級クラブではない、メキシコの安宿なのだ。支払いは現金のみ。
二日酔いの頭をどんなに巡らせても、ロバートが現金で支払える方法は思いつかなかった。(逃げるしかない)とこっそり腰を浮かした。
悪い遊びに連れ込んだスティーブのことは、ひとまず忘れた。「僕は(一人で)窓を飛び降り、壁を乗り越え、道路に着地しました。『人生終わった』と思いましたよ」
メキシコ人の用心棒二人がその一部始終を見ていたが、後に残ったスティーブのことを知っていたのだろう、ロバートを追いかけはしなかった。息も絶え絶えのロバート、なんとか逃げ切ったのである。
その後、スティーブがメキシコの安宿でどんな扱いを受けたのかは分からない。
しかし、海千山千の大スターは肝が据わっていた。翌日、スティーブは撮影に45分遅れながら姿を見せたのだ。
スティーブが無事だったおかげか(?)、ロバートの人生は終わることなく、『荒野の七人』以降、TVシリーズ「0011ナポレオン・ソロ」(1964-68)で本格的なスターとなった。
スティーブとの豪快な一件は、若いロバートに大きな影響を与えたはずだ。ハリウッドスターのカリスマを全身に浴び、ロバートのスターへの扉が開いたのだから。
<「faroutmagazine.co.uk」 2024年11月16日>