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海外ドラマおすすめコラム vol.21 デンマーク文化に精通した大学教授が語るデンマークの魅力

 

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大晦日の晩にマルグレーテ女王がテレビを通じて国民に直接語りかける。これは、国民の中心に王室が存在することを強く感じさせる恒例の行事である。その時必ず国外のデンマーク人に思いを馳せるのだが、昨年末も平和を守るためイラクやアフガニスタンに派遣され任務を遂行しているデンマーク兵士たちに心からの感謝と新年の挨拶が送られた。
 
デンマーク王室は古い歴史を誇り、1448年からの約400年間はオレンボー朝の時代と呼ばれている。1750年頃そのオレンボー朝の300周年を記念して、フレゼリク5世がコペンハーゲンの一角に優雅な街並を計画した。それが現在アマリエンボー宮殿、フレゼリク教会のある一帯である。円屋根が印象的なフレゼリク教会はマーモア(大理石)教会と通称されており、完成は1894年。円屋根の内側には十二使徒が描かれている。教会からアマリエンボーへ、さらに海を隔てて2005年竣工のオペラハウスへ視線を移すと、見事に軸が一直線に伸びているのがわかる。また、海辺には2008年建設の新王立劇場があり、従来の王立劇場とともに多彩な文化空間が展開している。
 
コペンハーゲンはこぢんまりとした街である。2002年に開業した地下鉄は徐々に整備されており、来年には市庁舎前広場やマーモア教会なども駅名として並ぶ環状線が完成する。
 
市内には都市計画と無縁のユニークな場所がある。クリスチャニアと呼ばれる一画で、1971年に若者たちが廃棄された軍施設を占拠し、一種の「自由都市」を宣言したことに始まる。そのまま半世紀近くも生き残り、現在も約1000人が居住し、今では観光スポットにもなっている。こうした例からも伺えるように、デンマーク人は元来多様な価値観に対して非常に寛容な国民である。しかし578万人という人口の国にとって近年の移民・難民の急激な流入は深刻な問題となった。移民たちにデンマークの価値観に従うよう求めざるを得なくなったのである。
 
人々の暮らしぶりを見ると、誕生日に対し特別な思い入れを持っていることがわかる。特に50歳など十年毎の区切りの誕生日の祝い方は、あまりに大がかりで驚かされる。歌を歌い、ケーキに国旗を飾る。素朴な喜びを愛する一方で、女王のスピーチにならって、誕生日には誰もが所感を述べ丁寧に感謝の心を伝える。気さくであると同時に形式を重んじるその姿に、王国としての長い歴史の反映が見られるように思う。
 
「BELOW THE SURFACE 深層の8日間」は、歴史ある教会やモダンな建物を舞台に人質たちの人生も描かれており、ドラマを通して現代のデンマークをリアルに感じることができた。
 
 
【東海大学文化社会学部北欧学科教授 福井信子 2018/10/03】