米NBCネットワークで、1990年から全20シーズンにわたって放送されたクライム・サスペンスの金字塔「LAW & ORDER」。米国内だけで4つのスピンオフ番組を生んだ気鋭のクリエーター、ディック・ウルフが手がけるフランチャイズにおいて、「LAW & ORDER: 性犯罪特捜班」に続き、2001年に誕生した2つ目のスピンオフが「LAW & ORDER: 犯罪心理捜査班」だ。ニューヨーク市警(NYPD)本部の重要事件捜査班(MCS)に配属となった天才刑事ロバート・ゴーレンを中心に、相棒アレクサンドラ・エイムズ刑事らの活躍を描いた本格派の犯罪捜査ドラマである。
本作が本家「LAW & ORDER」やその他のスピンオフ・シリーズと大きく異なるのは、類まれなる知性と鋭い洞察力、巧みな話術を駆使して、容疑者の逮捕から動機の解明にも重きを置く心理戦に優れたゴーレン刑事の捜査にフォーカスしている点だ。極めて個性的ながら地に足のついた“リアルな天才刑事”を体現するのは、映画『メン・イン・ブラック』ほか映画や舞台、TVと幅広く活躍する演技派ヴィンセント・ドノフリオ。アメリカでは放送開始直後から、ドノフリオの出色の役作りが高く評価され、視聴者は瞬く間にゴーレンに夢中になると同時に、舞台で確固たるキャリアを誇るキャスリン・アーブ演じる相棒の女性刑事エイムズとのコンビネーションも魅力的で、すぐに本家をしのぐほどの視聴者数を誇る人気シリーズへと成長。番組はメインキャストを追加、交代しながら2011年のシーズン10まで放送されるロングランを記録した(シーズン7からはUSAネットワークで放送)。シーズン5からは、本家「LAW & ORDER」でクリス・ノースが演じたマイク・ローガン刑事が本格的に登場するほか、今作からは映画『ジュラシック・パーク』のジェフ・ゴールドブラムがメインキャストとなるなど、ビッグネームのレギュラー&ゲスト出演も見逃せない。
他のシリーズとは一味違う「犯罪心理捜査班」の特徴
「ニューヨークには、凶悪犯罪と心理戦で闘う刑事たちがいる」というナレーションから始まる「LAW & ORDER: 犯罪心理捜査班」は、本家「LAW & ORDER」とテーマ曲など共通点は多く他のシリーズと世界観を共有しているが、シリーズの中では異なる点が目立つ。例えば、ニューヨーク市警察(NYPD)の27分署を舞台にしている本家「LAW & ORDER」は、刑事たちが聞き込みや地道な捜査の積み重ねで犯人にたどり着くという王道の刑事ドラマであるのに対し、本作はNYPD本部に凶悪な事件を担当するべく組織された重要事件捜査班(Major Case Squad=通称MCS)の物語。つまり、ゴーレンほかの刑事たちは選ばれたエリートなのだ。
「LAW & ORDER: 性犯罪特捜班」もスペシャルチームの活躍を描いているが、こちらは扱う事件の性質上、同じ刑事仲間から異質な目で見られるなど差別されている部分があるのに対して、ゴーレンらはスマートな印象。扱う事件も本家のようにストリートに根付いた地域密着型というよりは、マンハッタンの権力者や富裕層など特権階級が絡んだものが多く、そうした人々のエゴや虚栄心、またはその周囲にむらがる人々が抱く劣等意識や逆恨みなど、動機や真相は往々にして人間の複雑な深層心理が絡んでくる。そのため、事件解決のためには関係者の心理を読み、外堀からじわじわと固めていって、最終的には容疑者から自白を引き出すというのが本作の基本的なフォーマットで、ゴーレンが持つ犯罪プロファイリングの卓越した能力が発揮される展開となっている。しばしばエピソードの最初の方で犯人の目星はつくが、自白または真犯人に至るまでの過程と、犯人の真の動機を解明するところまできっちりと描かれるため、ラストまで視聴者を引きつける本格ミステリーの要素は他のシリーズより強いとも言える。
注)初回放送当時の情報となります