THE WIRE/ザ・ワイヤー

あのオバマ大統領も「お気に入り」と公言した傑作シリーズ!
米ケーブル局HBO製作、機能不全を起こした組織とそこに所属する人々の軋轢をえぐり出す、社会人必見の刑事ドラマ

特集

THE WIRE コラム (全3回)

Vol.1 「THE WIRE/ザ・ワイヤー」の気になる男たち

TVシリーズが成功するかどうかの鍵の1つに、視聴者が登場人物たちに共感できるかどうかという要素がある。いくら評価の高いドラマでも、登場人物が個人的に好きになれなかったり、感情移入できる人物が居なかったら観続ける気がしなくなるものである。

その点、「THE WIRE/ザ・ワイヤー」には魅力的な人物がたくさん登場するが、今回は、女性である私から観て特に"気になる男たち"3人について語ってみたい。

column1_01.jpg まず、麻薬捜査班のチーフとなるセドリック・ダニエルズ。出世欲に満ち、自分の立場しか考えないような上層部の人間が多いボルティモア市警察署での政治的駆け引きから一歩退く賢明さを持ち合わせている。駄目な部下が不注意きわまりないミスを犯しても、最終的には上司としての自分の責任をキチンと取る男気を見せる。往年の西部劇に登場しそうな昔ながらのいわゆる男らしい男の典型的キャラである。演じるランス・レディックは、鋭い眼光を放つ目、削ぎ落とされたような頬の線が印象的な精悍そのものの顔。193cmの長身に、贅肉が皆無な身体。そして、深みのある低音の声で、ダニエルズという人物を100%体現することに成功している。

column1_02.jpg そのダニエルズのチームの賢人的存在なのがレスター・フリーマン。過去に警察の組織内のいざこざで痛い目に遭つ過去を持つためか、何事に対しても達観する姿勢を取る。最初は、"はみだし刑事"たちの集団を見て"駄目だ、こりゃ"とばかり、黙々とドールハウス用家具を作って窓際族のように振舞うが、いざ盗聴(ワイヤー)作戦が軌道に乗り出すと素晴らしいアイディアや核心をつく発言を披露して実は非常に優秀な刑事であることを見せる。レスター役のクラーク・ピータース自身も、映画やTVではあまり知られていない性格俳優だが、舞台では長いキャリアを誇るベテランだ。ニューヨーク出身だが20代の頃からロンドン在住。いぶし銀のような渋い演技は、ロンドンの由緒ある舞台仕込みなのである。

column1_03.jpg 上の2人に比べるといかにもノリが軽いジミー・マクノルティ。傍若無人で大酒のみの女たらしと、絵に描いたようなバッドボーイぶりだが、不思議と憎めない。特にハンサムというルックスでもないが、笑顔には少年っぽい無邪気さも覗き、何気に魅力的だ。演じるドミニク・ウエストは、「シカゴ」の暴力亭主や「300」の卑劣な裏切り者という悪役も少なくないが、実際に会った御本人は、礼儀正しいイギリス紳士という印象でした。

【2008年5月 ライター 荻原順子】