ザ・ソプラノズ

家族とマフィア、二つの「ファミリー」の板ばさみに悩める男、トニーの魂は取り戻せるのか・・・。
米ケーブル局HBO製作、全米TV界の歴史を塗り替えた怒涛のヒューマン・ドラマ

特集

ザ・ソプラノズ コラム

Vol.10 エピソード監督をめぐるエトセトラ

『ザ・ソプラノズ』をめぐる当コラムの最終回は、エピソード監督にフォーカスを当てつつ、やはり映画をテーマにしたいと思う。何といっても、映画『ディパーテッド』でアカデミー賞作品賞、そして念願の監督賞に輝いた名匠マーティン・スコセッシがパイロット版に登場しているという、すごいドラマなのだから! 
そういう意味で、デイヴィッド・チェイスはやはり映画フリークだなぁと思わせるのは、メルフィのドクター役で登場するピーター・ボグダノヴィッチである。71年の『ラスト・ショー』でアカデミー賞監督賞候補になり、73年『ペーパー・ムーン』でヒットを飛ばした映画監督で、近年は俳優としての活動が目立っている。子供の頃から映画狂で有名で、映画や映画の歴史についての数多くの著作でも知られている。チェイスとは、以前に伝説のスター、オーソン・ウェルズに関するテレビの仕事で知り合ったというから、いかにもという感じだ。本シリーズでは、シーズン5の第6話を監督しているが、ボグダノヴィッチをエピソード監督として使うとは、なんともぜい沢な話であった。
映画ファンにとって最もなじみがあるのは、シーズン5にトニーB役でレギュラー出演していたスティーヴ・ブシェミだろう。映画『ファーゴ』などのコーエン兄弟の作品から大作『アルマゲドン』まで、常にと独特の存在感を発揮する個性派俳優だが、本シリーズでは計4エピソードを監督。以前にも『ホミサイド/殺人捜査課』や『OZ/オズ』でもエピソード監督を手がけており、映画『トゥリーズ・ラウンジ』等の長編映画も監督している才人だ。
映画界出身者ではなく、シリーズ全体を支えるテレビ系の監督たちも忘れてはいけない。さまざまなアワードで高く評価されているアレン・コールターやジョン・パターソンらは、『シックス・フィート・アンダー』をはじめとするHBO作品でもおなじみ。彼らは、『ザ・ソプラノズ』のクオリティの高さが業界で多いに注目を集めているため、ハリウッドからも誘いがあるようだ。特にコールターは、エイドリアン・ブロディ、ベン・アフレック共演の映画『ハリウッドランド』(2007年6月公開予定)で、ヴェネチア映画祭で金獅子賞(グランプリ)の候補になるなど、既に高い評価を得ている。50年代の人気ドラマ『スーパーマン』の主演で人気を博したものの、謎の死を遂げた俳優ジョージ・リーブスの死の真相に迫る、実話をベースにしたサスペンス。テレビ業界が舞台なので、コールターにはおあつらえ向きの題材である。
過去のコラムでも述べてきたが、『ザ・ソプラノズ』の出現によってドラマのイメージは一新され、一昔前までは根強かったテレビと映画の垣根は格段に低くなった。これはテレビ史上、モニュメントとして記憶されるべきであろう。
(最終回)

●今 祥枝(いま・さちえ)
ライター。「日経エンタテインメント!」「BAILA」「ロードショー」「デジタルTVガイド」等、各種雑誌にて映画&アメリカンドラマの記事を執筆。「シックス・フィート・アンダー」「ザ・ソプラノズ」「HUFF」などのじっくりみせるドラマが好き。