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海外ドラマ最新レポート Vol.364  「インスティンクト -異常犯罪捜査-」アラン・カミング 伝説の映画監督との思い出を語る

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インスティンクト -異常犯罪捜査-」で元CIAの大学教授、ディラン・ラインハートを演じるスコットランド人俳優のアラン・カミングが、伝説の天才映画監督の遺作に出演した思い出を明かしている。舞台、映画、TVシリーズと売れっ子のアランにとっても、その出演を誇りとしている作品が、スタンリー・キューブリック監督の映画『アイズ・ワイド・シャット』だ。
 
主演が当時、実の夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマンであることも話題を呼んだ作品だが、アランが俳優として惹かれたのは、メガホンを取ったのがキューブリック監督だったということ。キューブリック監督といえば、映画史に残る傑作かつ最も難解な作品と言われる『2001年宇宙の旅』、ジャック・ニコルソンの怪演を引き出した『シャイニング』などで有名。1999年に死去したキューブリック監督の最後の作品が、同年公開の『アイズ・ワイド・シャット』なのだ。
 
撮影が始まった時、アランはまだ30代初め。俳優として駆け出しの頃だった。『アイズ・ワイド・シャット』での役はホテル受付係。端役であった。「(撮影の)前の年、僕はこの映画のために、4回も5回もオーディションを受けていた。たった1シーン、数分しか出番はなかったんだけどね。役は勝ち取ったというより、この撮影に来れるかい?と聞かれた感じだった。僕はもちろんと答えた。スタンリー・キューブリック監督作品なんだ、レジェンドと仕事できるチャンスを逃してなるものかとね」
 
役のオファーではなく、「来れるかい?」だったのは、撮影の日程が押していたからだろうか。「僕の撮影がまわってくるまでに、一年以上も撮影に入っていたんだ。結局、400日も撮影にかかったのだからね。撮影期間が最も長い映画として記録になった」 そんな撮影事情はキューブリック監督の天才肌にある。一切妥協を許さない撮影。現場はピリピリしていたようだ。アランの初日も周囲をヒヤリとさせた。
 
「『君は(オーディションの)テープではアメリカ人だったじゃないか』と言われたんだ」 アランが演じるホテル受付の男はアメリカ人の設定だった。初対面のアランの英語にスコットランドのなまりを感じたのだろう。キューブリック監督は不機嫌になったという。「その時、僕の中で何かが弾けたんだ。それとも開き直ったのか? とにかく僕はその時点で何か月も待たされていた。ちくしょう、なんて思ったのさ。だから僕は言ってやった、『その通りです。だけど僕は俳優ですから』とね」
 
トムの喉がゴクリと鳴ったのは、アランの空耳だったか。「スタンリーがあごひげに隠れて微笑んでいるように思えた。『いいから、台詞を言ってくれ』って彼は言ったのさ」 撮影は噂通り、何度も何度もテイクを重ねた。「あらゆる角度から撮影した。そして次のテイクはどんな含みを持って台詞を言うのか、顔の表情、身振り手振りについて指示されるんだ。スタンリーは信じられないくらい細かく演技を指定してきた。僕が何よりうんざりしたのは、『完璧だ、もう一度やってみて』と言われることだった。完璧だったら、何故もう一度演技する必要があるんだろうってね」
 
撮影を重ねるにつれ、キューブリック監督とジョークを交わすほど意気投合したアラン。伝説の監督との出会いは演技に迷いを持っていた時でもあった。「スタンリーは全てを変えてくれた。彼は僕にスクリーンの一秒一秒に命を吹き込むよう教えた。おかげで演技に対して再び熱意を持てるようになった。ほんの数分の出演時間に、数日かかって撮影した経験は何より刺激的だったね。あのおかげで今も演技を続けていられるんだ」
 
伝説の監督の教えを、スクリーンに残すのも遺作に出演したアランの務め。あの時再燃した演技への思いは今も消えていない。
 
 
<「theguardian.com」  10月17日>