シックス・フィート・アンダー

人々の"死"を通して限りある"生"の現実をシニカルかつユーモラスに描き
全米で絶賛の嵐を巻き起こした描いた衝撃のヒューマンドラマ

監督・プロデューサー アラン・プール インタビュー

「シーズン1で早くも成功を収めて、私たち皆、ビックリしたんです。こんなにもヒットするとは思っていなかったから」と語るのは、「シックス・フィート・アンダー」で製作総指揮を務めているアラン・プール。数々のテレビ賞で作品賞や監督賞、俳優賞などを受賞し、「ザ・ソプラノズ」と並んで有料ケーブル局HBOの看板番組となった「シックス・フィート・アンダー」の成功の秘密とは?と尋ねたらこんな答が返ってきたのであった。
「『シックス・フィート・アンダー』が視聴者たちを惹きつけた最大の理由は、フィッシャー家の人々が、素晴らしくユニークでしかもリアルだったからだと思いますね。番組が始まった当初、"死についてのドラマなんて観たくなるものかな?"と懐疑的だった人たちも、観始めたらフィッシャー家の日常を覗き見るのが病みつきになってしまったのでしょう」と、フィッシャー家の人々の魅力を強調するプールだが、フィッシャー家と彼らを取り巻く人間たちは、シーズンが進むにつれ、成長を遂げていくということも教えてくれた。
「何年にもまたがるシリーズでは、登場人物たちは成長していかなければならない。でも、その人物の本来の姿が変わってはならないんです。昼メロとかで、突然、性悪女が善い人になっちゃったりすることがあるけど、嘘っぽいもいいところ。私たちは、そういう嘘っぽさを避けつつ、マンネリにならないように登場人物を成長させようとしたんです」

演じる役の本質をキープしながらも、彼らの成長を体現するにはそれなりの演技力が要求されるものだが、「シックス・フィート・アンダー」制作にあたっては、キャスティングにも細心の注意が払われたそうだ。
「アラン・ボールも私もキャストにはすごくこだわりがあって、優れた俳優たちを集めたいと思っていました。幸い、HBOは "有名スターでなくても、その役にピッタリな俳優をキャストすべし"というスタンスを守っている局なので、自由にキャスティングができました。デイヴィッド役のマイケル・(C・ホール)もルース役のフランセス(・コンロイ)も舞台中心に活躍してきた俳優たちで、映画出演作はあまり無かったのですが、その実力は証明済みでしたから。一番、難航したのはネイト役のキャスティングでした。ネイト役にキャストしたピーター(・クラウス)は、それまでずっと普通の二枚目役ばかりを演じてきたので、ゲイであるデイヴィッド役希望でオーディションを受けに来ていたのですが、ふと思いついてネイト役の脚本読みをしてもらったら、イメージにピッタリだったのでネイト役を御願いすることにしたんです。ブレンダ役も、独特の雰囲気を持つ強い女性ということで、満場一致で気に入るような女優が見つからなくてね。レイチェル(・グリフィス)はオーストラリア在住だったんですが、彼女のエージェントはパイロット・エピソードの脚本をファックスで送り、レイチェルはファックス機の傍に立ち続けて、1枚1枚ページが送信されてくるそばから読んで、即、気に入り、メルボルンから翌日の飛行機に乗ってロサンゼルスに居る私たちに会いに来てくれたんですよ」

キャスティングと言えば、性格俳優リチャード・ジェンキンス演じるフィッシャー家の家長ナサニエルは、第1話の冒頭でいきなり交通事故死してしまうが、その後、フィッシャー家の面々の空想する幽霊という形になって"帰宅"するが、そのアイディアはどこから生まれたものなのだろう?
「死を描くドラマということで、毎回、番組の冒頭に誰かが死ぬところを入れようというのは、アラン・ボールのアイディアだったんだけど、彼は初回エピソードを、主役となる一家の父親の死で始めることにしました。そんな展開、誰も予期しないだろうからということで。でも、ナサニエルはすごく重要な存在なので、幽霊として出演させ続けることにしたわけです。実は、アラン自身、ティーンエージャーの時に交通事故で姉を失っているんです。それゆえ、家族を突然失うという悲劇が、このドラマの根底に流れていると言ってもよいかもしれません」

ちなみに、プールが個人的に最も気に入っている"死に様"は、シーズン1、第8話「転機」の冒頭でリムジンのサンルーフから頭を突き出し、路上の移動クレーンに頭を激突させて死ぬ中年女性のケース。プール曰く「ゾッとするほど恐ろしいと同時にどこか可笑しい死に様で、この番組にピッタリ。衝撃的にバイオレントだけど撮影は楽しかったな。(笑)それに、彼女の顔面を修復するリコの技術の素晴らしさがよくわかるエピソードでもあったから」だとのこと。

そうやって、毎回、毎回、さまざまな死に様が登場するドラマをプロデュースしていくうちに、プール自身、死に対する見方が変わっていったと言う。
「今後、死に直面した際、このドラマに関わったことが慰めになるだろうと言ったら言い過ぎだけど、死というものに慣れることができたというか、死に対する心の準備ができるようになったと思います。これは私だけに限らず、この番組に関わった人たち全てが、感じていることなんじゃないかな。アメリカ社会では、とかく死はタブー視されることが多い。でも、私たちは、死も人生の一部として受け止めなければならない。興味深いことに、『シックス・フィート・アンダー』はアメリカの葬儀業界人たちの間でとても評判が良いんです。実は、私たちは、葬儀業界がこの番組をどう受け止めるかちょっと心配していたんだけど。葬儀社を営むフィッシャー家は、長男は葬儀屋業を嫌ってるし、次男はゲイだし、皆、ちょっとクレイジーなところのある機能不全家族だし、葬儀業界のコンベンションを退屈なイベントみたいに描いたこともあったしね。(笑)でも、いざ蓋を開けてみたら、葬儀業界は、意外にも私たちの番組を温かく歓迎してくれて、最初の数年間は、アラン・ボールと私を、コンベンションに招いてスピーチを頼んできたりしたんですよ。彼らにしてみれば、自分たちの業界にスポットライトが当てられたのが嬉しかったのでしょう。それに加えて、この番組を観て葬儀について多少の知識を得ることによって、一般人がこれまで葬儀全般に対して持っていた恐れや気味悪いといったイメージが薄れるという、ポジティブな効果もあったのだと思います」

「シックス・フィート・アンダー」の独特な世界を創り出すため、映像にもこだわった。
「番組のルックスについては、最初から撮影監督と入念に打ち合わせをしました。死に囲まれた世界だし、フィッシャー一家は感情を抑圧して暮らしている人々だということで、他のテレビドラマとは一味違う映像に仕上げたかったんです。具体的には、人物間の距離感を強調するために広角レンズを多用しているし、色味もテレビで好まれる暖かい色調ではなく青ざめた色調にしてあります」

映像作りについて熱心に語るプールを観ていると、現場が好きなプロデューサーなのだということが容易に想像できるが、「シックス・フィート・アンダー」の4エピソードで経験した監督業も楽しんだとのこと。
「監督するのは楽しかったですよ。ただ、監督する際は、プロデューサーとしての自分を完全に消すよう心がけねばなりませんでした。他のことは一切忘れて、俳優や撮影スタッフ、セットに意識を集中させ、予算のことなど、プロデューサーとして持つ優先事項は全て排除し、何が作品にとってベストなのかを常に考えるように努めました。でも、監督業は、満足感の大きいやりがいのある仕事ですね」

今後はプロデューサーと監督を兼業していきたいと言うプールだが、プロダクションの世界に足を突っ込んだきっかけは、なんと日本に在るという。
「昔、日本に住んで、通訳をしたり、日本映画のコースを教えていた時に、日本語が出来て日本の俳優たちを知っているからということで、ポール・シュレイダー監督の『ミシマ』の制作に参加したんです。それが私のプロデューサーとしてのキャリアの始まりでした。その後、『ブラック・レイン』でも、アメリカ側と日本側の橋渡し的役割のプロデューサーを務めました。なので、日本に住んでいなかったらプロデューサーになることも無かったと思います。だから、ニホンノオカゲデス」 では、日本も、「シックス・フィート・アンダー」誕生に少しは貢献したと?
「もちろん!日本の大手柄ですよ。だからこそ、私は、『シックス・フィート・アンダー』が遂に日本で放映されることになって、ゾクゾクするほど凄く嬉しく思っているのです」

【ロサンゼルス(米) 荻原順子 2005年11月】

アラン・プール
Alan Poul

エグゼクティブ・プロデューサー
映画・TVのプロデューサーとして長年にわたり活躍しているアラン・プール。日本でも放送された「アンジェラ15歳の日々」や、映画『ウーマン・オン・トップ』『あなたに逢えるその日まで』『ブラック・レイン』の製作に携わる。日本に留学していたことがあり、流暢な日本語を話す。「シックス・フィート・アンダー」の製作総指揮を務めるほか、エミー監督賞と全米監督協会賞にノミネートされたシーズン2の第30話を含む4本のエピソードを監督している。