ジョン・ウェルズ論

アメリカTVライター 池田敏

『ER』『サード・ウォッチ』『ザ・ホワイトハウス』を手がけ、現在の米TV界を代表するプロデューサーの1人である、ジョン・ウェルズ。自身のプロデュース作品に脚本家としてクレジットされることも多いクリエイターだ。

バックグランド ―ジョン・ウェルズ

ジョン・ウェルズは1956年(月日不明)、ヴァージニア州アレクサンドリアで、聖職者の父親と学校教師の母親のもとに生まれた。姉妹1人と弟(後に『ザ・ホワイトハウス』のプロデューサーになるリューウェリン)という3人兄弟の1人だった。ウェルズは労働を大切に考える母親のもと、8・9歳から新聞配達や路上でのレモネード売りをしたという。これらは米国では教育がしっかりした家庭の子供のアルバイトの定番で、ウェルズは〝ちゃんとした家の子供〟だったのだろう。
また、父親が芸術好きだったので、演劇、オペラ、クラシックの演奏会に足をよく運んだが、TVはほとんど見なかったという。ウェルズが大衆向けのTVを見たのは父親が外出している時ぐらいだったというのは、後の経歴を考えると意外かもしれない。
その後、ウェルズはカーネギー・メロン大に入学し、プロダクション・デザイン(日本の映画・TV流にいえば〝美術〟)を学んだ。すでにプロデューサー志望だったが何を学べばよいか分からず、〝プロダクション〟の単語を見てそう決めたそうだ。やがて南カリフォルニア大学(USC)の映画学科に再入学したが、そこでは脚本が必須課目に。ウェルズは脚本を執筆するようになり、『ヒル・ストリート・ブルース』のスティーヴン・ボチコらに作品を送った。そうした活動が注目されたのか、突然、ワーナー・ブラザース社(その後ウェルズの各番組を製作する)のスタジオ付き脚本家になったという。

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■大ヒットTVシリーズ『ER 緊急救命室』を製作

同社でウェルズは88年、他のプロデューサーが企画した『チャイナ・ビーチ』に脚本家とした参加した。このドラマは、ベトナム戦争当時のダナン米軍基地に隣接する病院、通称《チャイナ・ビーチ》を舞台に、看護婦や女医の群像を描いた、ある意味、『ER』の原点を思わせる病院ドラマだった。作品自体、それなりに評価されて4シーズン続いたが、この番組には後にウェルズが手がける『ER』他のスタッフ、ロッド・ホルコム監督(『ER』の第1話を監督)、ミミ・レダー監督(後に映画界に進出して「ピースメーカー」「ディープ・インパクト」他を監督)、脚本家のキャロル・フリント、リディア・ウッドワードも参加していたのは特筆すべき点。シーズンが進むにつれてウェルズやウッドワードが書くエピソードが増え、ウェルズは監督業にも進出した。この番組、筆者はビデオ発売されたパイロット版しか見ていないのでウェルズの仕事ぶりは確認できないが、時に戦場ドラマを思わせる『ER』と通じる要素が、そこかしこにある作品であった。
同じことは『チャイナ・ビーチ』のワーナー社も、スティーヴン・スピルバーグの会社、アンブリンのトニー・トモロウポスも憶えていたのだろう。人気作家マイケル・クライトンが執筆した映画用脚本をTVシリーズ化する『ER』。その製作が決まった93年、ウェルズは『チャイナ・ビーチ』の経験を買われてプロデューサーに抜擢される。スピルバーグも尽力した『ER』だが、映像化が動き出すと、クライトン、パイロット版(結局第1話になった)のホルコム監督、そしてウェルズの3人が番組の原型を固めていった。
なお遡って92年秋、ウェルズは『エンジェル・ストリート/追いつめられた女刑事』(日本ではパイロット版のみV発売)にも参加。この番組、シカゴの女性刑事コンビを描いたポリス・ドラマだが、全米放送は何と3話で打ち切られ、後の売れっ子の作品と思えぬ失敗作に。しかしファンなら、大都市シカゴのロケに続く『ER』を連想するはず。
『ER』に話を戻そう。結局、ウェルズはクライトンと共に製作総指揮に名を連ね、第1シーズンの全25話中、計5話に脚本家としてもクレジット。但しこの『ER』、他にもそういう番組は珍しくないが、10人近い脚本家からなる会議を経て脚本は執筆されており、ウェルズはその中の一人だったにすぎないともいえる。しかしパイロット版以降、クライトンが脚本家にクレジットされていないことから、彼を引き継いで番組をリードした立役者は、やはりウェルズだったのだろう。
実際、第2シーズンは、最初と最後の回の脚本家にウェルズの名前がクレジットされており、彼は第16話「同僚」でエミー脚本賞にノミネートされた。また第4シーズンの第13話「カーターの選択」で、『チャイナ・ビーチ』以来久々にメガホンも取っている。

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『サード・ウォッチ』、『ザ・ホワイトハウス』を次々と製作

続いて99年秋に全米NBCで始まったのが『サード・ウォッチ』だ。〝『ER』のセットで思った。ERに出入りする救命士、消防士、警官を描けないかと。だが『ER』ではできなかった。なぜなら彼らはERの外にいるからだ〟と考えたウェルズ。そんなアイディアを実現させたのがこの番組だ。
筆者も大好きな『サード・ウォッチ』だが、第1シーズンは『ER』と同様、複数のストーリーが並行する展開で幕開け。しかし新たな可能性をめざしたのか、第2シーズンは一話毎に各キャラをクローズアップするスタイルに変わる。こうして登場人物の内面を掘り下げた後、第3シーズン以降は最初のような群像スタイルに戻った。特に第3シーズンは直前、物語の舞台となるニューヨークで9・11テロの悲劇があったためか、力の入った傑作エピソードが連発する。
ウェルズと共同で企画したのは『NYPDブルー』などに参加していた脚本家エドワード・アレン・バーネロ。彼らと製作総指揮をつとめるのは、『ER』で大スケールのエピソード(「地獄からの救出」など)に腕をふるったクリストファー・チュラック監督。他にもフェリックス・エンリケス・アルカラ監督など『ER』組が多数演出を手がけている。
そしてウェルズは同じ99年に始まった『ザ・ホワイトハウス』も成功し、3番組が同時ヒット中の敏腕製作者として、娯楽情報誌"Entertainment Weekly"の《ハリウッドの実力者ベスト100》の1人に選ばれている。また、ウェルズは映画のプロデュースも増えていて、「エデンより彼方に」「ホワイト・オランダー」「ストーカー」など順調だ。

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TVプロデューサー ジョン・ウェルズとは…

最後に、駆け足になるが、ウェルズとはどんなプロデューサーなのか。まず、同じ脚本も書くプロデューサーたち-『アリー・myラブ』のデイヴィッド・E・ケリーのような-に比べると、作品のジャンル性や登場人物の個性など、強烈な色を感じさせない。だがこれは、複数の物語を並行して描くアンサンブル・ドラマ(『ER』に代表される)の面白さを追求したことに付随した、必然の結果ではないか。ウェルズ自身もこう語っている。〝我々に必要なのは、あらゆるキャラクターをあらゆる方法で見せることだ〟と。そして『ER』のベントンを例に、〝黒人を黒人らしく描く必要なんてない。そんな人物描写を見る視聴者はいない〟ともいう。筆者がウェルズが答えた各インタビューを読んでよく思うのだが、彼は実に理路整然としたコメントが多い。混乱しがちなアンサンブル・ドラマの多彩な要素を効果的に配置する、そんな作業に向いたドラマ作家なのではないか。
そう考えると、『ER』のマイケル・クライトン、『ザ・ホワイトハウス』のアーロン・ソーキンなど、他のクリエイターとの合作をウェルズが物にしてきたのも合点がいく。彼らのヴィジョンを実現するため、ウェルズは見事な女房役をつとめたといえよう。余談だが、筆者は『ザ・ホワイトハウス』のキャストにLAで取材したが、出てきたのはソーキンのほうの名前ばかりだった。逆にソーキンに対するウェルズの好サポートを感じた。
ウェルズはこう語ってもいる。〝『ヒル・ストリート・ブルース』に衝撃を受け、フィルムで撮影するTVドラマを作りたいと切望にするようになった〟と。番組作りの現場を共にする直接の師弟関係こそないが、実はスティーヴン・ボチコの遺伝子はウェルズに受け継がれたのではないか。アンサンブルの魅力、登場人物が抱えた人間的弱さ、演じるキャストは地味な外見でもOK(?)……。ウェルズ自身そこまで語ってこそいないが、やはりボチコの影響は大きいにちがいない。
何より、安易な方法で視聴者の目を引こうとしない、胴が据わった姿勢。そんなウェルズに、米国ドラマのメイン・ストリームを代表する名クリエイターの風格を感じずにいられない。最近の『ER』でも重要なエピソードに彼の名前を見つけると、ついホッとするのだ。

注)引用したウェルズのプロフィールやコメントは『ER 緊急救命室/完全ガイド・ブック』(ジャニーン・ブロイ著/扶桑社・刊)などを参考文献とした。

※この文章は、私がキネ旬ムック「海外TVドラマファイル」(キネマ旬報社)に寄稿した文章を、私自身がリライトして短縮したものです。(池田敏)

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